2012年06月25日

シリーズ第1回 スチームトラップについて考える(3)


第3回目となる今回は、「ストール現象」についてご紹介していきます。


皆様方の工場において、空調設備で蒸気式の熱交換器を使用して、工場内の温度管理をしている場所は無いでしょうか?
また、生産設備においても蒸気の比例式調整弁を使用していませんか?
最近では、温度制御もシビアなものが求められています。
それに伴い従来のON-OFF制御から、温調計と温度センサーを使用した比例制御を用いているところが多くなっています。

このシビアな温度管理を行うために用いられる比例制御が、ON-OFF制御時では発生しなかった「ストール現象」の様な新たなトラブルを引き起こす事があります。

そして、その代表的な例が、先回でも少しご紹介しました「比例制御している空調用の熱交換器が定期的に破損してしまう」という事例なのです。

まず、この現象を理解する上で押さえておくべきポイントが2つあります。

1. 蒸気の急速冷却によるハンマー発生原理
2. 送気圧力とトラップのドレン排出能力の関係

1番目のポイントに関しては、第2回にてご紹介しておりますので説明は割愛させていただきます。
(参照:第2回 http://www.hic-news.com/admin/pre/blog.php/v/9/ 

今回は2番目のポイントとなる送気圧力トラップ排水量の関係を簡単にですが説明致します。

スチームトラップは圧力差があって、初めて流れる様、設計されています。
そのため、排出能力は同じトラップでも入口と出口の圧力差が大きい程高くなるのです。
逆に、圧力差が0またはマイナスになると、いくら排出能力の高いトラップでも排出不良となります。


 


シリーズ第1回 スチームトラップについて考える(3)

(クリックにて拡大)

ポイントとなる2つの点を抑えて頂いた上で、本題の「ストール現象」とは何かを解説していきたいと思います。

工場空調の一部を加温するために蒸気式熱交換器をダクトの間に入れて空調していたとします。
熱交換器に入る手前に比例式の蒸気制御弁があり、蒸気出口には温調トラップがついていました。
最初は部屋が冷えているので制御弁は全開状態です。トラップも順調にドレンを排出していきます。

次第に部屋の温度も上がり設定温度に近づくに連れて比例制御弁も少しずつ閉まっていきます。それに伴い熱交換器内の圧力も下がっていき、やがて0になります。従って蒸気ドレンも徐々に出にくくなり蒸気ドレンが熱交換器内に溜まって排出できない状態になります。


これが「ストール現象」です。


シリーズ第1回 スチームトラップについて考える(3)

(クリックにて拡大)

このような状態になってしまうと熱交換器内の管路が冷やされ、また熱交換器自身も本来の能力を発揮できなくなってしまいます。
そうなると、部屋の温度も下がっていきますので、再加温しようと比例制御弁が解放されて熱交換器内に蒸気の送気が開始されます。
この時、冷えたドレンの中に蒸気が入る形となり、ウォーターハンマーが発生します。
また、熱交換器内に常にドレンが滞留している形となりますので腐食の原因にもつながります。この繰り返しが熱交換器の寿命を著しく短くしていくのです。

ストール現象の弊害をまとめてみます。

1. 熱交換器内にドレンの滞留による腐食・劣化
2. 熱交換器内ウォーターハンマーによる破損
3. 熱交換器内ドレン滞留による能力低下


ストール現象を防ぐ方法として3つ挙げられます。
1. パワートラップや真空ポンプで強制的にドレンを排出する。
    →これはウォーターハンマー及び腐食防止のためです。

2. 熱交換器とトラップとの落差を300mm以上とる。
    →これは落差を設けることにより差圧ができてドレンが
      抜けやすくなるためです。

3. スチームトラップはフロート式を選定する。
    →これはトラップの中でも1番差圧が少なくても作動するためです。

どうでしたか。「ストール現象」というものは他にも設計当初では問題がなくても稼働状況の変化によって起こる場合や、トラップの二次側に背圧がかかる場合など様々な状況で発生する可能性があります。このような現象でお困りでしたら、是非お気軽にご相談ください。

最後に、弊社ショールーム「スマートファクトリー」にて、お客様にもっと深く知っていただけるように、実演機を作って再現できるかを試してみました。





こういったトラブルというものは条件が揃わないと中々うまく再現することができません。
私達も色々なトラブルを再現させようと実験していますが、逆にトラブルを起こそうと思ってもうまくいかないことの方が多いのです。
そのことからも実際にトラブルが起きた時も原因を追究することはかなり難しいことが分かります。トラブルの原因というものはたいてい複数の要因が重なって起こることがほとんどだからです。


尚、弊社省ルームにて今回ご紹介したストール現象の再現をはじめとする、色々な実験を体験することができます。
お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。

2回にわたって、ドレンの滞留によるトラブルについてご紹介してきましたが、次回、本シリーズ最後のテーマは、トラップが原因で起こるもう一つの要因である「蒸気漏れで引き起こすトラブル」に焦点をあてて、生産現場の改善を考えていきたいと思います。
次回をお楽しみに。


この記事に関してご意見・ご質問等ございましたら、GKC担当:永井までお気軽にお問合せください。








HIC豊安工業株式会社のブログです。

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投稿者

技術営業G 永井


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